大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和22年(れ)42号 判決 1947年11月29日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人伊知地重孝上告趣意書 第一點原判決に依れば「被告人は中略金錢に窮した結果賭場荒しをやらうと考へて原審相被告人小川秋信等と共謀の上、二人は夫々」下略と判示して居りますが原審(第一審)の相被告人は小川秋信と橋本敬助の両人であることは第一審判決に明かである次第であり判示の二人は夫々とあるのは被告人石橋は相被告人の両名の内の何人と共謀したのか或は被告人石橋と相被告人の小川橋本の三人が共謀して犯行は二人でやったのか判然たるものがありません。これを第一審以來の公判調書を査閲して見ますに被告人石橋は原審相被告人小川とは共謀した事実は認められますが被告人橋本と共謀したとの證據もなければ又之の事実もありません。即ち原判決の小川秋信等と共謀云云は證據によらずして事実を認定した違法があるものであって破毀せらるべきものと信じますといふのであるが

原判決の認定するところは被告人が原審相被告人小川秋信と共謀して原判示第一、第二の犯罪行爲をしたといふので原判決の擧示する證據によればその事実は十分に認められる。原判決に「被告人は原審相被告人小川秋信等と共謀の上」とあることは辯護人主張のとほりであるが被告人が小川秋信のほか更に何人と共謀した事実があるかどうかは本件に關係のないことであってたとへ原判決が小川秋信等と書いた點に所論のやうな誤があったとしてもそれは原判決を破毀する理由にならないことは勿論である。論旨は理由がない。

同第二點又原判決は其法律の適用の點について上略「強盜の所爲は孰れも一個の行爲で數個の罪名に觸れ又住居侵入と強盜の行爲は夫々犯意繼續に係り且その間手段結果の關係があるので刑法第五十四條第一項前段竝に後段第五十條第十條を適用し」……下略とありまして被告人石橋か強盜住居侵入の罪ありとして起訴せられて判決のあった本件に於て被告人石橋が行った二個の強盜行爲について數個の罪名に觸れるとの點は判示の何處にも発見することはできません。若しこれがあるとすれば被告人のどの強盜行爲が刑法第二百三十六條第一項の罪に該當すると同時に刑法若くは何の刑罰法規の第何條に該當するかを明示しなければなりません。此の點に於て原判決は擬律について錯誤があり破毀せらるべきものであると信じます。というのであるが、

原判決の認定するところによれば被告人は小川秋信と共謀の上狹間卯之太郎方ほか一ヶ所で二度とも同じやうにそこで博奕をしてゐた三人のものに對し小川が匕首をつき付けておどしそこにゐた人達を怖れさせてその人々の所持金を奪ったといふので一個の強迫行爲をして數人の者からその所持金を奪ったといふのであるからこれは刑法第五十四條第一項前段にいふ「一個ノ行爲ニシテ數個ノ罪名ニ觸レ」にあたるものと判斷したのはもとより正當であって何等違法の點はないのである。この論旨も理由がない。

以上全裁判官一致の意見により刑事訴訟法第四百四十六條に從ひ主文の如く判決する。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 藤田八郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例